絵本の世界にあそぶ―昭和初期から戦争期にかけて
編集:中村稔
明治から昭和にかけて、金井信生堂という安価で質の高い絵本を刊行していた出版社がありました。
昭和初期から戦時期にかけて出版された絵本は、詩人たち画家たちが、時代の趨勢におもねることなく、いかにやさしく、あたたかく、みずみずしい心情を、真摯に子供たちに向けていたかを気づかせてくれます。
ふだんは見る機会のない多くの原画をまじえながら、子供にとって最初の世界との接点といえる「絵本の世界」にあそび、絵本の原点を見出す試みです。
部門構成と主な出品資料
第1部 ことばであそぶ―清原斉の原画・詩人たちが贈ることば―
清原斉は、童画家として昭和初期から戦後まで活躍した。ここで展示をする清原の原画は、『名作絵入童謡』に使われたもので、北原白秋、西條八十、野口雨情らの童謡に合わせて描いたものとされている。なかには未刊行原画が8枚あり、それらには、永澤康太、橘上、久谷雉ら現在活躍している若手詩人が「今、子供に向けた詩」を寄稿。
第2部 絵であそぶ―村山知義の絵―
村山知義は、前衛美術や演劇、評論、小説などあらゆる芸術分野で頭角を現した。
その一方で、自身の自叙伝の中で「私の専門の一つである児童のための絵」という言葉を使っているように、子供の本のイラストの仕事への思いも強かった。ここでは、村山の未刊行原画を展示。
特に「張子の犬」と「めがね」は、村山籌子夫人(童話作家)がウタの書き文字を書いていて、たいへん珍しい作品。
第3部 絵本であそぶ―吉田一穂の絵本たち―
詩壇に属すことなく孤高に詩を書き続けていた吉田一穂は、戦時下の昭和14年から19年まで、絵本編集者として金井信生堂で勤務した。子供が人生で出会う最初の本が絵本だ、という吉田自身の信念によって作られた絵本たちを展示する。
なかでも、現在世界的に著名な彫刻家である佐藤忠良がこれらの絵本の絵を描いているのは注目に値する。