少年少女雑誌にみる近代/川端康成と「文藝時代の人びと」
2015年4月4日(土)~6月13日(土) 終了いたしました。たくさんのご来場まことにありがとうございました。
日本では、明治以来、多くの文学者や画家、編集者により、多様な少年少女雑誌が生み出されてきました。これらの雑誌は、時代の特性や、社会の求めた「子ども像」を如実に顕す一方で、そこに収まることのない、独自の豊かな文化も同時に創りだしました。本展では、当館所蔵の少年少女雑誌の中から70誌を選び、その100年にわたる軌跡を、作家の肖像写真、肉筆資料、挿絵の原画などの関連資料とともに展観します。日本の近代社会を色濃く反映した媒体としての歩みを辿るとともに、刊行当時の生き生きとした姿を通して、少年少女雑誌が創造した多様な世界をご紹介します。
開館時間 | 午前9:30~午後4:30(入館は4:00まで) |
観 覧 料 | 一般200円 (20名以上の団体は一人100円) |
休 館 日 |
日・月曜日、第4木曜日(4月23日、5月28日) |
編 集 | 安藤宏・池内輝雄・久米依子・浜田雄介 |
主な出品資料
第一部 立身出世と良妻賢母女――近代国家の少年少女(明治)
明治の少年少女雑誌には近代国家の建設を急ぐ当時の社会状況が如実に反映され、国家有為の人材育成を意図したものが多く見受けられます。「小国民」は、明治22年の創刊号で「諸君が『小国民』を愛せらるゝは即ち国家を愛せらるゝ精神の致す所」と、国家主義的な編集方針を打ち出します。一方、明治三九年創刊の「少女世界」には、下田歌子や山脇房子といった女子教育の先覚者たちが頻繁に寄稿し、新しい時代に生きる少女のあるべき姿を説きました。第一部では他に、押川春浪が編集し、忠勇義烈をよしとする雰囲気の中で人気を集めた「冒険世界」や「武侠世界」、投稿雑誌として活況を呈した「穎才新誌」「少年文集」「中学世界」などを紹介します。
「少女世界」1909年5月号 | 「小国民」1891年11月3日号 |
第二部 「童心主義」――芸術としての童話を求めて(大正)
子どもたちに「芸術として真価ある」童話・童謡をとどけようと、鈴木三重吉が創刊した「赤い鳥」につづき、「金の船・金の星」「おとぎの世界」「童話」「コドモノクニ」など大正期には多くの童話雑誌が誕生しました。これら一連の雑誌の中から芥川龍之介・北原白秋・西条八十など、今日に読みつがれる作品を、清水良雄や岡本帰一、武井武雄らによる色彩豊かな表紙画とともに紹介します。さらに、「令女界」「少女画報」など竹久夢二や蕗谷虹児、高畠華肖ら画家たちにより美しく彩られた少女雑誌、絵雑誌「ヨウネン」や国力増強の時代を反映した「飛行少年」「海国少年」など、大正期に刊行された多様な雑誌を展観。併せて川端龍子画「少女の友」口絵原画、三重吉や夢二ら作家たちの書も展示します
「コドモノクニ」1926年5月号 | 「童話」1920年12月号 |
第三部 「大衆」「人民」「少国民」――激動の時代の中で(昭和・戦前)
昭和に入ると「少年倶楽部」「少女倶楽部」が全盛を迎え、「少年少女譚海」「少女の友」などとともに大衆的児童文学の流行を下支えします。小学館は大正末期に「セウガク一年生」などのいわゆる学年誌の刊行を開始。本展では昭和10年代に刊行された学年誌のほか、カルタやすごろくなど、当時の子どもたちの人気を集めた付録類も展示。一方、戦況の激化にともない、各誌は子どもたちの戦意高揚を促す記事を次第に増やします。「航空少年」やグラフ雑誌「週刊少国民」は戦場や陸軍飛行学校の様子を写真入りで紹介しました。このほか、「コドモ満洲」や「ラジオ少国民」、学年誌を統合した「小国民の友」など当時の世相を象徴する多くの雑誌を展示します。
「航空少年」1943年9月緊急増刊号 | 「セウガク一年生」1935年9月号 |
第四部 「民主主義」「男女平等」――子どもたちの新時代(昭和・戦後)
終戦 後、自由な雰囲気と新たな時代の息吹を感じさせる多くの児童雑誌が創刊、良心的児童雑誌と評価される「赤とんぼ」や「銀河」は戦後児童文学の発展に大きな 足跡を残しました。「赤とんぼ」にはケストナー「飛ぶ教室」の翻訳や竹山道雄「ビルマの竪琴」、新美南吉の遺稿も掲載。「銀河」は「進ンダ國ノコトバハ、 イヅレモ、ヒダリ横ガキ」と当初横組みで発行、読者の批判もあり、その後縦組みに変更しています。また、「ひまわり」「ジュニアそれいゆ」「白鳥」「女学 生の友」など戦後刊行された少女雑誌は新しい時代の女学生像を美しいイラストとともに独自の視点で提案しました。ほかに児童詩の投稿雑誌「きりん」、絵雑 誌「こどもクラブ」など、昭和30年代までに刊行された数々の児童雑誌を紹介します。
「銀河」1946年10月号 |
「白鳥」1948年6月号 |
川端康成と「文藝時代」の人びと
(川端康成記念室・同時開催)
1924(大13)年10月。25歳、東大を卒業したばかりの川端康成は、横光利一、片岡鉄兵らと同人雑誌「文藝時代」を創刊しました。新感覚派の文学運動と同一視される傾向の強い「文藝時代」ですが、文学的主張は様々ながら、新しい文学を目指した当時の新進作家の集う、多彩なものでした。
本展では、「文藝時代」に先立つ東大生時代の川端の文壇デビュー、「文藝時代」創刊までの同人たちの奔走、「文藝時代」に発表された川端の初期代表作「伊豆の踊子」、そして19名の「文藝時代」の同人たちを、当時の資料とともにご紹介します。