こんな写真があるなんて!―いま見つめ直す文学の新風景

2018年12月8日(土)-2019年2月23日(土)

※本展の直筆資料は全て複製またはパネルでの展示です

開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
観 覧 料 一般300円(団体20名様以上で一人200円)
中学・高校生100円
休 館 日 日曜・月曜・第4木曜、年末年始(12/27-1/4)
特別整理期間(2/12-16)
編集委員 武藤康史(評論家、日本近代文学館理事)

 

冬季企画展
「こんな写真があるなんて!―いま見つめ直す文学の新風景

近代の文学史は写真とともにあった

「この作品を書いたのは、どんな人だろう?」
私たちはつぶやきます。
作者の顔を知りたくなるのです。
顔を知ったからといって何になるのでしょう?
でも顔が見たくなる。人間の煩悩かもしれません。
それにこたえてか、作者の肖像写真がさまざまに流通しています。本に、雑誌に、新聞に……作者の写真があちこちに載っています。恐らく19世紀の終りごろから、文学作品は(多くの場合)作者の写真とともに享受されていたようなのです。近代の文学史は写真とともにあったとさえ言えるでしょう。
かねて日本近代文学館では本や雑誌の中に眠る文学者の写真を発掘・整理してきました。
文学者から紙焼きやネガでご寄贈いただいた貴重な写真についても調査・研究を進めています。
今回そういった写真を(所蔵するうちのごく一部ですけれど)一挙にごらんいただくことにしました。
「こ、こんな写真があるなんて!」
「あの人に、こんな表情があったとは!」
といった驚きを共有してくださいますか。
本や雑誌に載った写真を、それが載ったもとの状態のまま眺めると、何か発見がありませんか。
川端康成記念室は「生誕100年記念 林忠彦写真文学展 文士の時代―かおとことば」です。それ以前の時代の写真の撮り方と、何とまあ違っていることでしょう!
最後までとくとごらんくださいますように……。

(編集委員 武藤康史)

部門紹介

Ⅰ 出版記念会

芥川龍之介『羅生門』、萩原朔太郎『純情小曲集』、太宰治『晩年』などの出版記念会の集合写真を、初版本や刊行当時の雑誌広告、関連書簡とともに展観し、文学者とその友人たちとの交流を紹介します。

Ⅱ 原民喜

民喜旧蔵の写真アルバムの中から、家族写真を中心に展観します。また、民喜が亡き妻との思い出を綴った「忘れがたみ」など周辺資料を紹介します。

Ⅲ 片岡鉄兵、川端康成、横光利一

3人の旅写真の中から、1938(昭和13)年4月の『田舎教師』遺跡巡礼の旅(川端撮影)および1940(昭和15)年3月の東海道の旅(片岡撮影)を紹介し、その交友関係と創作活動の裏側に迫ります。

Ⅳ 全集・叢書/単行本の口絵写真

『現代日本文学全集』・『新進傑作小説全集』・『新興芸術派叢書』などの全集・叢書から、丹羽文雄・宇野千代・三島由紀夫・五木寛之・大江健三郎ほか1960年頃の単行本までを展観します。若かりし頃の姿や珍しい表情から、文学者たちの新たな一面を見出します。

Ⅴ 夏目漱石、有島武郎、太宰治

見合い写真、結婚写真、家族写真を通じてそれぞれの人生をたどるとともに、彼らがどのようにカメラに向き合い、自己表現の一部として写真をとらえていたのか、作品の中から紹介します。

 

特別開催《川端康成記念室》
生誕100年記念 林忠彦写真文学展 文士の時代―かおとことば

特別協力 林忠彦作品研究室

「敗戦の傷あとが深く残っていた銀座で、僕は酒場のルパンを根城に仕事をはじめたのですが、そこで僕は酒を通して坂口安吾さんをしり、それが縁でさらに織田作之助、太宰治、といった、いわゆる戦後派の作家と近づきになることができました。そして彼らをしればしるほど、戦前の作家には見られなかったデカダンというか、心情のままに生きようとする姿に驚き、ぜひ写真に撮っておこうと思いたったのです。」

――林忠彦『日本の作家』(主婦と生活社・1971(昭和46)年)あとがき

 

林忠彦(1918(大正7)年~1990(平成2)年)が撮影した多くの文士の肖像のなかから、林忠彦氏存命中にプリントされた写真、12枚を特別に借用して、展示いたします。
登場作家は、内田百閒、大佛次郎、織田作之助、川端康成、菊池寛、小林秀雄、坂口安吾、谷崎潤一郎、太宰治、林芙美子、三島由紀夫、山本周五郎(五十音順)。
また、稲垣足穂の肖像写真は新発見、本展で初公開となります。「小説新潮」(1948(昭和23)年8月号)に一枚掲載されていましたが、一度も写真集に収録されることないままでした。林義勝氏がネガを捜索、2カットだけ撮影されていたことがわかり、雑誌未掲載のカットを新規でプリントして展示いたします。
伊藤整は「小説のふるさと 若い詩人の肖像」(「婦人公論」1956(昭和31)年10月号)、高見順は「作家故郷へ行く 福井県」(「小説新潮」1956年12月号)にそれぞれ掲載された写真を新たにプリントして、組み写真として展観します。写真と掲載ページを見比べると、雑誌の誌面レイアウトの関係でトリミングされているものもあることがわかります。

本展は、林忠彦氏生誕100年を記念して、林忠彦作品研究室代表、林義勝氏の全面的な協力で開催されます。
*企画展の観覧料(300円)で同時にご覧いただけます。