小説は書き直される―創作のバックヤード


2017年12月2日(土)―2018年2月10日(土) 

※本展は複製資料・パネル展示を中心に構成されています。他館所蔵資料は画像提供によるパネル展示です。

開館時間 午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで)
観 覧 料 一般100円
休 館 日 日曜日・月曜日・第4木曜日(1/25)・年末年始(12/27-1/4)
編集委員 安藤宏

 

冬季企画展
「小説は書き直される―創作のバックヤード」

小説は生きている

今回の展示は、われわれが日頃、当たり前のように慣れ親しんでいる名作が、どのように書かれ、活字化されるのか、さらにそのあともいかに読み継がれ、書き直されていくのかという、時間の歩みを追いかけていくことにねらいがあります。

作者はまず小説の着想をメモや草稿の形にし、何度も書き換えながら浄書していきます。その際、さまざまな資料が参照されることになりますし、著名な古典が翻案されることもあるでしょう。一個の小説は、先行するテクストとの無数の見えざる「対話」から成り立っているわけです。原稿用紙はまさに生みの苦しみの現場で、書き直しや削除の跡から、一個の虚構世界が構築されていくプロセスをたどることができます。活字化は小説が密室から社会に羽ばたく決定的な〝事件〟ですが、小説の一生はここで終わるわけではありません。さまざまな評価にさらされる中で、作者は改訂の機会あるごとにこれを書き換えていきます。小説は作者と読者の「対話」を通して成長を続けていく生命体であり、作者がこの世を去った後も、さらに後世の人々によって育まれていく文化資産なのです。

われわれが何気なく手にしている一冊の文庫本が、実は長い時間の連なりの中にある一つの「顔」にすぎないこと、その背後には創造にまつわる様々な苦しみや喜びがあり、読者との「対話」の産物であることに新鮮な驚きを感じて頂ければ、これに過ぎる幸いはありません。

(編集委員 安藤宏)

部門紹介

序章 「夜明け前」の誕生

島崎藤村「夜明け前」を例にとり〝小説の一生〟を概観します。

主な出品資料
島崎藤村「夜明け前」創作ノート・原稿・初出誌・単行本・校正刷
「年内諸事日記帳」(通称「大黒屋日記」 藤村記念館蔵)

第1章 構想

多くの創作メモや小説の構想のもとになった資料を紹介し、小説執筆に先がけた文学者たちの思考の跡をたどります。

主な出品資料
夏目漱石「それから」構想メモ(東北大学附属図書館蔵)
遠藤周作「沈黙」草稿(遠藤周作文学館蔵)
「きりしたんころび書物之事」写本(長崎歴史文化博物館所蔵 写本原本・西勝寺蔵)
樋口一葉「たけくらべ」未定稿
ほか、芥川龍之介、堀辰雄、井上靖など

第2章 原稿用紙の世界

夏目漱石、芥川龍之介、石川啄木をはじめ多くの作家の手書き原稿をご覧いただくとともに、原稿が活字化されるまでの作業についても紹介します。

主な出品資料
二葉亭四迷「平凡」原稿
泉鏡花「義血侠血」最終稿(石川近代文学館蔵)
石川啄木「雲は天才である」原稿
織田作之助「俗臭」原稿
伊藤整「若い詩人の肖像」校正刷
高見順「生命の樹」校正刷
ほか、永井荷風、中島敦、宮沢賢治など

第3章 活字化以後の変貌

雑誌から単行本へ、単行本から全集へと再録される中で、小説がいかなる変貌を遂げうるのかをご覧いただきます。

川端康成『雪国』

川端康成『雪国』

太宰治『佳日』

太宰治『佳日』

主な出品資料
森鷗外「阿部一族」掲載誌・単行本
「忠興公卿以来御三代殉死之面々」(東京大学総合図書館蔵)

井伏鱒二「山椒魚」
横光利一「旅愁」
大岡昇平「野火」
松本清張「或る「小倉日記」伝」
小林多喜二「蟹工船」
太宰治「佳日」
川端康成「雪国」 各掲載誌・単行本

第4章 読み継がれる中で

夏目漱石「坊っちゃん」、林芙美子「放浪記」を例に、読み継がれる中でテキストが変遷した作品を紹介します。

夏目漱石『鶉籠』

夏目漱石『鶉籠』

 

林芙美子『放浪記』

林芙美子『放浪記』

主な出品資料
林芙美子『放浪記』各単行本
夏目漱石「坊っちゃん」関連資料

編集委員の安藤宏先生によるトークイベント

1/6(土)14時から館内ホールにて。詳細はこちら

職員によるギャラリートーク

下記の日程で職員によるギャラリートークを開催いたします。

 12/22(金)、1/12(金)、1/19(金)、1/26(金)、2/2(金)、2/9(金)

いずれの日程も14時から20分程度。

ご希望の方は開始時間に直接展示室へお集まり下さい。