明治文学の彩り――口絵・挿絵の世界
2022年1月8日(土)~2月26日(土)
本展は終了いたしました。ご来場ありがとうございました。
開館時間 | 午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで) |
観 覧 料 | 一般300円 中学生・高校生100円 |
休 館 日 | 日曜日、月曜日【※1/10(月・祝)は開館】、および 1/11(火)、1/27(木)、2/15(火)~2/19(土)、2/24(木) |
編集委員 | 出口智之(東京大学准教授) 安藤宏 (東京大学教授) |
本展について
私たちが「文学」と聞いた時、たいていは文章による作品を思い浮べます。「日本文学史」と言われれば、記紀歌謡から近年の新人賞受賞作まで、言語芸術とそれを書いた作者たちの歴史だと思うでしょう。しかし、山東京伝や柳亭種彦といった江戸の戯作者たちは、文章よりも先に口絵・挿絵の下絵を描き、それを見ながら文案を練るのが普通でした。そして、そうした制作慣習は維新後も廃れず、明治の近代作家たちの多くも、実は口絵・挿絵に指示を出し続けていたのです。
坪内逍遙も、尾崎紅葉も幸田露伴も、樋口一葉も島崎藤村も泉鏡花も、そしておそらくは田山花袋や夏目漱石までも、みな絵に指示を求められたのが明治という時代でした。逆に言えば、当時の彼らにとっての自作とは、自分で指示した絵と文章がセットになった形だったのです。もちろん、その態度は様々で、仕事の一部として淡々と絵をつけた作家もいますし、反発して強く拒否した作家もいます。しかし、なかには文章と絵とが支えあうコラボレーションを試みた作家もおり、そうした場合、当時の絵を見ず文章だけを読んでいては、作家の目指したところに向きあうことはできません。
一方、近代出版に組込まれた江戸以来の慣習は、様々な問題も引き起しました。依然として、起筆前のような早い段階での指示が求められたため、執筆中に構想が変るなどして、本文と絵とが食違うことも珍しくありません。読者にとっては迷惑だったでしょうが、でも現代から見れば、絵のなかに作品の原構想が化石のように保存されているのです。そう考えると、不調和に終った例もまた、作家たちの苦心の痕跡と見えてきます。
この展覧会は、単に絵だけを味わうのではなく、絵から明治文学のありかたを捉えなおす、おそらく世界でもはじめての試みです。美麗な木版多色摺口絵の味わいかたから、日刊新聞という緊迫した制作現場での文章と絵とのぶつかりあいまで、明治文学の新しい姿をぜひお楽しみください。
(編集委員 出口智之)
展示構成
一、口絵・挿絵とは何か
明治の口絵・挿絵は江戸と連続している!
人物紹介としての口絵、場面再現としての挿絵の違いや、作者による稿本、指示画の存在を
紹介します。
二、作家と出版社の挑戦
作家・出版社による指示が強く反映された絵からは、彼らがめざした「物語との協奏」や
「斬新な試み」が見えてきます。
三、謎の絵
本文ではまったくの脇役が口絵になっている!?
物語との齟齬、不可解な絵を通して、制作にまつわる謎を探ります。
四、新聞挿絵について
明治の絵入り新聞小説の作りかたと、作家たちのかかえた難題とは……。
本文と挿絵の進行が乖離してしまった宮崎三昧「塙団衛門」(東京朝日新聞)や、
ほぼ同様の場面が続いてしまった樋口一葉「別れ霜」(改進新聞)の挿絵などの例をご紹介します。
五、明治文学の華やぎ
明治文学はどのように彩られていたのか。文学作品が本来持っていた、ビジュアル的な華やかさの数々を紹介します。