生誕110年太宰治 創作の舞台裏
4月6日(土)-6月22日(土)
開館時間 | 午前9時30分~午後4時30分(入館は午後4時まで) |
観 覧 料 | 一般300円(団体20名様以上は一人200円) 中学生・高校生100円 |
休 館 日 | 日曜日・月曜日・第4木曜日(4/25、5/23) 特別整理期間(6/11-15) *ゴールデンウィーク中は日月を除き開館 |
編集委員 | 安藤宏(東京大学教授 日本近代文学館理事) |
生誕110年 太宰治 創作の舞台裏
このたび生誕110年を記念して、太宰治展を開催いたします。
当文学館は過去、没後20年展から50年展に至るまで、何度か本格的な太宰治展を開催してきた実績があり、また、全国各地の文学館でも、さまざまな形で太宰治の魅力が紹介されてきた歴史があります。これらとの重複を避けるため、今回は思い切って「資料に見る創作の舞台裏」という一点に焦点を絞ることにしました。太宰治の生涯をたどったり、活動した地域との関係に力点を置くのではなく、あくまでも残された「資料」それ自体に主役になってもらうことに意をそそいでいます。そのため、チャプターも時期別ではなく、資料の性格別に組んであり、これらを読み解く面白さを通じて、作品の生み出される創造の機微に触れて頂ければ幸いです。
今回特に注目すべきものの一つは「お伽草紙」の完全原稿で、初めてその存在が明らかになったものです。このほか、これまで知られてきたと思われる資料の中にも新たな要素がさりげなく組み込まれていますので、「通」をもって任じておられる方にも意外な発見を楽しんで頂けるのではないかと思います。個々の資料には、これを保管してきた方々のさまざまな思いや物語が託されており、そうしたいきさつや経緯を知って頂くことにも留意しました。
当館の「太宰治文庫」は 1987年、97年、2014年の三回に及ぶご遺族からの資料の寄贈から成り立っており、原稿、草稿を初めとする計423点に及ぶ資料は、他の追随を許さぬ研究資料の宝庫になっています。ほかにも中学高校時代のノートを初め、多くの直筆資料の寄贈があり、この企画はそれらのエッセンスを結集しています。ご遺族を初め、貴重な資料を寄贈して下さいました関係各位に、あらためて、心より御礼申し上げます。
(編集委員 安藤宏)
●部門構成
第1部 「太宰治」のルーツ
美知子夫人が収集・作成した津島家関連資料、旧制青森中学校・旧制弘前高校在学中の同人誌や英作文などを展観し、太宰治のルーツを追いかけます。
第2部 ノート・落書きを中心に
中学・高校時代の授業ノートに書かれた落書きや、太宰ひとりが生き残った田辺あつみとの心中事件の緊迫した様子を伝える遺書を含む中畑慶吉保管文書から、青年期の一場面を浮かび上がらせます。
第3部 原稿・書き換えの跡をたどる
太宰治文庫に収蔵された草稿や構想メモからは結果的に活字になったのとは別の作品の姿を垣間見ることができます。ここでは「火の鳥」「悖徳の歌留多」などの草稿や「善藏を思ふ」構想メモ、さらに晩年にとりくんだ『井伏鱒二選集』の草案などをご紹介します。
第4部 典拠・小説に用いた資料
「富嶽百景」や「右大臣実朝」などの代表作を執筆するにあたり、太宰はどのような資料を参考にしたのでしょうか。残された資料からは読者が想像する以上に綿密な準備のなされていたことがわかります。作品執筆の際の参考にした書籍や取材メモなどを展観します。
第5部 戦争の影
太宰の文学活動は戦中には内務省、戦後にはGHQという正反対の検閲の板挟みにあいました。戦中には「花火」が風俗削除処分を受けたほか、戦後には「佳日」「冬の花火」「パンドラの匣」「お伽草紙」などの内容をつぎつぎと書き換えることになります。当時の雑誌・単行本・原稿から戦争が太宰文学に落とした影を追っていきます。
第6部 「斜陽」と「人間失格」
晩年の代表作「斜陽」「人間失格」の原稿・草稿からはこの作品がどのような試行錯誤を経て書かれたのかうかがい知ることができます。また、太宰没後、川端康成の仲介により実現したドナルド・キーンによる『斜陽』『人間失格』の英訳に関する資料もご紹介します。
同時開催 川端康成の青春
川端康成記念室では、若き日の川端康成の活動に焦点を絞った
「川端康成の青春」を開催致します。
一高時代、伊藤初代との恋、「文藝時代」の創刊など、その
青春期ともいえる日々を辿ることで、川端文学の萌芽を探り
ます。また「伊豆の踊子」や「浅草紅団」、「禽獣」といった初期川端文学の魅力を、貴重な資料とともに紹介します。
*併設の川端康成記念室にて開催。特別展の観覧料(300円)で同時にご覧いただけます。